教師を目指す若い人たちが、リビング・バリューを学習しました。

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教育実習でのリビング・バリュー実践
(このプログラム参加者が、ご自身の教育実習の中で、リビングバリューを実践されました。以下は、ご本人にお願いして書いて頂いたレポートです。 )

体験を通し、自らの価値を発見(教育実習での体験)

●生徒指導においての体験

教育実習での生徒たちによる、価値の発見についての体験談を話させていただきたい。

教育指導要領では、「生きる力」の育成に力を入れていることもあり、私の中でも生徒たちには夢を持ち、生きることの喜び、自己の価値に気づき、見出す必要があることを導きたかった。このような心意気で、教育実習に取り組むことになった。中学時代はアイデンティティの確立を図るためさまざまな問題意識が生まれ、多くの悩みを持つ時期であるため、心の教育の重要性を感じ、実習校は母校の中学校を選択した。

現状としては、期待も膨らましていたせいか、愕然とするものだった。生徒たちの服装は乱れ、授業中も落ち着きがなく席を離れる生徒が普通にいた。遅刻してくる生徒も多く、保健室登校する生徒の数は全校生徒数に対して高い割合であった。自転車の破壊、上級生の暴力事件は毎日のように頻繁に起きていた。

私の中では、誰にでも価値はありそれを認めていくことの大切さは頭で理解していたものの、常に意識が外に向けられていた。子供たちのやる行動に、怒り、腹を立て、物事を主観的に見ていた自分がいた。心の中ではいつも苛立っており余裕がなかった。生徒たちの価値を見つけることができない自分にあきれていた。

しかし、教育実習が1週間過ぎた頃、生徒たちの行動や態度に反応するのではなく、生徒たちの内面を見つめ、愛を与えることに徹してみた。すると、常に自分の内面にフォーカスすることができている自分がいて、心はとても穏やかだった。また、生徒の態度も変わっていき、授業がスムーズに行えたり、私の周りにはいつも生徒が集まっていた。このとき、生徒が変わったのではなく、自分の内面に意識を向けることによって心の持ち方が変わり素敵な体験ができたのだと私は確信した。

●授業での体験@

私は生徒指導において、生徒たちのおかげで価値の発見の重要性を再認識することができた。そして、私はまた私が感じることができたように生徒たちにも自分たちには価値があることに気づいて欲しいと思い、体験を通して学ぶことが最も身に付くと思い、授業で取り入れることにした。

担当したクラスが、2年1組だった。明るくとても元気の良いクラスではあったが、落ち着きがなく、自分勝手な行動を取る生徒が多数いた。このクラスに必要な価値として私は道徳の授業で「協力」を取り上げることにした。道徳の授業はほぼテーマが決められており教科書に沿って行うことがほとんどだったが、体験が生徒たちを動かす大きなキーワードになると思い実行した。

道徳の授業は体育館で行った。体育館を選んだのは、心を開放できる場所で行いたかったのと、道徳と体育を融合させた授業を行いたいという理由があったからである。

この授業の中で生徒たちが一番「協力」に興味を示したゲームに、跳び箱を使ったゲームがある。10人1組にし、グループを作る。各グループが協力して1つの跳び箱に乗るという、いたって簡単なゲームである。しかし、10人という人数は以外に多く生徒たちは苦戦していた。乗り方は自由だったので、生徒たちは色々な案を出し合い、何度も何度も挑戦していた。5秒維持しなければならないため体を密着して乗ったり、何人かが座り何人かが立って乗ったりと複雑な姿勢をとっていた。一人が出した意見に賛成したり、また違った意見を出したり、それにしたがったりする中で徐々に「協力」とは何かを授業のねらいとした。

全てのグループが成功し、その達成した時の生徒の顔はとても輝いていて満足に充ちていた。このときの生徒の中に「協力」とは何かということが少しずつ気づき始めていたと思う。

教師が「協力」の定義ばかりを教えた授業をしてしまうと、生徒は知識として理解するが行動変容にはならない。体験が生徒の態度や行動を豊かにする要因となるのではないだろうか。

教育実習最終日に、精錬授業が行われた。授業では、2年1組のバレーボールの授業を受け持った。生徒も私にとって大事な授業である事を察したのか、5分前には集合して、挨拶の声も大きく、バレーボールのゲームでは自分たちで役割分担をし、授業終了時は笛の合図と共に集合する事ができていた。今までで一番最高の授業ができた。生徒たちに感謝の気持ちでいっぱいで、とても満足だった。

授業後、担任の先生から「今日の授業は女子の生徒が授業前に集まって、先生の授業を成功させようと話し合
い、騒ぐ男子がいたらみんなで注意しようと計画をしていた」と聞かされた。このクラスの「協力」が、私の最後の授業時にこのような形で表現してくれたことに感動した。子供の純粋さと「協力」の価値に気づき、即実践することができる行動力には心打たれるものがあった。

その後、生徒から2年1組が球技大会で優勝し、体育祭の応援の部でも優勝し、合唱コンクールでは最優秀賞を取ったと聞いている。

●授業での体験A

次に学級活動の時間を頂き、自己尊重の価値に気づくことができる授業を行った。以前生徒と話している中で、多くの生徒が「どうせ私何やっても駄目だし。」や「俺には無理。」という声を多く聞いた。こんなに純粋で素敵な生徒なのになぜ自分に自信がもてないのだろうと思った。そこで「自分のいいところを見つけよう」をテーマにして、自分のいいところに気づけない生徒に対して、周囲からバックアップしてもらい自分の良いところに気づき、価値を見つけるという目的で行った。

生徒一人がクラス全員分の良いところをバリューチェックシートに書き出し、それをフィードバックし生徒の手元に生徒全員から自分の良いところが書かれた紙をもらうという内容であった。これは、生徒が自分の価値を見つけると共に、他人の価値を認めるという作業でもあった。

始めの「自分のいいところをいくつでもいいので挙げてください。」という質問に生徒は何も発言しなかった。また書き出す作業においても、手はなかなか動かなかった。次にバリューチェックシートを配り、一人が生徒全員分の良いところ所を書き出す作業に移った。できるだけ生徒の内面について書かせるようにした。戸惑いながらもしかっりと相手の価値を見つけることができていた生徒が多かった。

これらを終学活に一人一人に配ると、生徒は照れながらも自分のいいところが書かれている紙をじっと見ながら、満足げな表情をしていた。

しかしここで、注意したいのが相手の評価ばかり窺がって、自分の内面に向き合うのではなく外ばかりに意識が行ってしまうことである。生徒にこの旨を伝えると、始め書けなかった自分の良いところの紙に書き出し始めている生徒がいた。生徒たちは少しずつではあるが自分の価値を見つけ始めたのではないだろうか。